最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「あ……」
 愛しげに見つめあうイフリート様とノーム様が、吸い寄せられるように身を寄せあい、キスを交わした。

 唇と唇が触れあい、離れ、見つめあい、また触れあう。
 愛の言葉を囁きあうようにキスを交わすふたりの姿に、うっとりと見惚れた。

 なんて素敵なんだろう。
 想いの深さも、それを伝える行為も、みんな同じなのね。
 人も精霊も、愛する気持ちに変わりはな……。

「……え?」

 私は目をパチパチさせた。
 小鳥のように可憐に口づけていたふたりが、いつの間にやら密着して、濃度の高い段階に突入している。

 お互いの背にしっかりと腕を回しあい、一部の隙もなく重ねた唇は、内部が想像できそうなほど艶めかしい動きになっていた。

「……」

 私とエヴルは、微妙に沈黙しながら立ち尽くす。

 ど、どうしよう。
 これってやっぱり、気がついてないふりした方がいいわよね? いいのよね? それがマナーよね?

 まったく視界に入っていない風を装って、このままの状態を維持しながら、『月がとっても青いよねー』みたいな会話を続けた方が……。

「……!」

 ふたつの影が、絡みあうように砂漠の上に倒れ込んだのが見えて、私の顔の筋肉が完全に強張った。

 イ……イフリート様が、ノーム様を押し倒していらっしゃる!?
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