最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 うわあ! このままだと月がとっても青いどころか、こっちの顔がどっぷり真っ赤になっちゃうような状況まで突入しそう!?

 これでもこのまま、視界に入っていないふりを続行した方がいいの!?
 その心遣いはもうすでに、思い遣りとは呼べない段階なんじゃ……!?

「……!!」

 倒れた拍子に宙に舞い上がった星の粉が薄れて、白いヴェールに隠されていたふたりの姿が朧に見えてきた。

 ノーム様の上に覆い被さったイフリート様の、なにやらイエローゾーンな動きが透けて見え始めて、私は声にならない悲鳴をあげる。

 もうだめ! これ以上は絶対だめー!

 反射的に私もエヴルも、バルコニーの陰にサッとしゃがみこんで身を隠していた。

 ドキドキ弾む胸を押さえながら、チラッとエヴルの様子を窺うと、彼も片手で自分の顔を覆ってしまっている。

 その耳の先まで真っ赤に染まっているのを見たら、こっちもますますドキドキしてしまった。

 ゆ、夢みたいに幻想的な世界だったのに、一気に生々しく現実的な状況になってしまった。
 いま見たことは、忘れよう。うんそうしよう。

―― キュッ……。

 不意に手の甲に温かさと重みを感じて、視線を向けた。
 私の手を、エヴルの大きな手が包み込んでいる。
< 92 / 162 >

この作品をシェア

pagetop