最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中！

　エヴルが熱を帯びたように熱く潤んだ瞳で私をじっと見つめていて、妖しい予感を感じた心臓が跳ね上がった。

「キアラ様……」

　少し掠れた声で囁きながら、迫ってくるエヴルの唇。
　私は息をのんで、肩をすぼめながら無意識に身を引いてしまった。

「なぜ避けるのですか？」
「だ、だって、なんだか怖い……」
「怖がることなどありません」

　顎をそっと掴まれ、上向けられる。
　優しい仕草なのに、なぜか逆らえない強引さも感じた。

「私はキアラ様の承諾を得ずに、初めての口づけを奪ってしまった。今からでもあなた様の合意がほしいのです」

「ご、合意って？」

「今度はキアラ様から、私に口づけてください」

「えぇ！？　わ、私から！？」

「私との口づけを望む証として、自ら唇を捧げてください」

「そ、そ、そんな……」

　頭皮まで真っ赤に染まってしまいそうなほど、顔に血が集まるのを感じる。
　両頬が熱くて熱くて、燃えそうだ。
　顔中から汗がドッと吹き出して、心臓が止まりそう。

「そんなの無理！　無理無理無理！」

「私と口づけるのが、そんなにお嫌なのですか？」

　ちょっぴり拗ねたような顔と口調で、そんなことを言う。
　初めて見せるそんな表情がすごく新鮮で魅力的で、胸がキュンと絞めつけられるように痛んだ。