最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 我慢しきれず声をあげてしまった唇を、また塞がれた。
 溶けそうなほど熱い舌が、強引にわたしのそれを絡み取って、荒々しく戯れる。

 その動きを受け入れるだけで精一杯で、呼吸の仕方もわからない。
 いつも優しくて穏やかなエヴルが、こんな艶めかしい行為を仕掛けてくるなんて……。

 不思議で、少し怖くて、でも怖いだけじゃないドキドキが体中を暴れ回っている。

「キアラ……様……」

 唇を離し、私の名前を呟くエヴルの顔が、私の真上にある。

 上気した頬と、乱れた息と、濡れたように輝く黒曜石色の瞳。
 サラリと崩れた前髪から、白いシャツの胸元から覗く肌から、匂い立つような男の色香が漂ってくる。

 これまで私に見せたことのない、陶然とした表情を見せる男の指が私の夜着の胸元に伸び、そっと広げようとするのを感じて息をのんだ。

 初めての事態に頭が真っ白になってしまって、どうすればいいのかわからない。

 体を硬直させることしかできない私に、エヴルはうわ言のように囁き続ける。

「キアラ様、本気で愛しています。愛してる。愛してる。愛してる愛してる……」

 呪文のように繰り返される、切ない愛の言葉。
 幻想のように美しい夜空を背にする、麗しい人。
 彼の唇も、舌も、指先も、なにもかも、麻薬のように私の心を虜にしていく。

 泣きたいくらい切ない想いに溢れる私の胸が、月の光の下で、ついにエヴルの手によって晒された。
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