確かに君は此処に居た
1.突然の訪問者は愛を告げる
午後5時。古島伽夜(ふるしま かや)は靴を履き替え、昇降口から出た正面に立つ時計を見上げれば、そんな時間だった。伽夜が通う高校は昇降口辺りから校門を越えた並木道まで坂である。

「疲れた」

一日の疲れを背負いつつ、門へと続く坂を下ると、ローファの下でかさっ、と軽快な音で足を止めた。

(・・もう散り始めているんだ・・)

坂に沿って植えられた背の低い桜樹の枝に目を向ける。先日、紅葉した葉は早くも秋風に吹かれ、地面に落ち始めている。

(ちょっと楽しいかも♪)

伽夜は歩き始めた。落ち葉の上を歩くたび聞こえるその音も、かさかさ・・と落ち葉が波のように動くのも疲れを忘れさせるようで楽しい。

「・・え?」

だから、気づくのが遅かった。はっと視線を上げようとするのとアスファルトに尻餅をつくのはほぼ同時だった。

「・・いた・・い」

どうやら余所見をしていた伽夜は誰かとぶつかったらしい。が、痛みの方が勝ってしまう。

「すみません。・・・伽夜?」
「え?はいっ!」

反射的に返事をした伽夜はようやく、視線を上げた。
白いTシャツに黒いパーカでGパン姿。おそらく、体格的に少年だ。落ちる太陽を背にした少年は野球帽を被っているせいで、顔に影が落ちて誰だか判定できない。

「大丈夫?痛かったよね」

その少年は伽夜の手を取って、立ち上がらせた。そして、ゆっくりと野球帽を外した。

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