確かに君は此処に居た
「ゆ…幽霊」

伽夜はまじまじと少年を見上げた。伽夜自身、霊感などなく非科学的な存在と無縁だ。クラスメイトらが自らを霊能力者と自称するのも耳を傾けていないし、心霊番組は見ない。あくまで現実主義だ。

「本当に幽霊?」
「ほら」

少年は床を蹴り、宙に浮き上がった。

「それにね、気を抜いたら身体は透けるし、触れないんだよ」

伽夜に片手を差し出す。伽夜の伸ばした手は明の手を触れようとするが、煙のように掴めない。目には視えているのに触れられない。

「やっぱり高等部で倒れたのは君だったの?」
「うん、それは僕だよ」

少年は昨日と同じ白いTシャツに黒いパーカー、Gパン姿。お父さん座りのまま少年は宙を漂う。

「私を恨んで此処に来たのでしょう?連れっていいよ」

少年は何故か固まっていた。いや、ぽかん…としていると言った方が正しいだろう。自分が合ってると思ってた行為が中々出来ず、他人がやった時に簡単に出来てしまった表情に似ている。

「私をそっちに連れっていいよ」

繰り返された言葉はより強い響きをもっていた。

「何を言っているの!?」

少年は伽夜に顔を近付けて声を上げた。

「僕は伽夜をこっちに連れて行くつもりは更々ないし、頼まれても嫌だよ!」
「じゃあ…なんで、出てきたの?」

目の前の少年が自分の前に現れた理由が分からない。あの場で逃げるように去った自分を恨んできたのではないのか。

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