確かに君は此処に居た
「…救急箱だね」

白い箱の正体は救急箱だった。伽夜が顔を上げた時には、大久保は伽夜と明が座る隣のベンチに座っていた。走り疲れたんだろう。

「家から持ってきたみたいだ。それなら、手当してくれてもいいのに」

隣で明がそうぼやくのを伽夜は消毒液を傷口に吹き掛けながら聞いていた。冷たいような痛いような感覚が傷口からはしるが我慢だ。

(…大久保くんは女嫌いだからしょうがないもの)

大久保愁。
女嫌い…だと噂には聞いていた。
現に女と話すのも視線を合わせることさえ嫌いらしい。

「躊躇いがあるんだよ」
「そっか。男が女の子の肌に触るのは失礼極まりないもんね」

明は伽夜が思っていた事とは違うように言葉をとった。傷口から垂れた消毒液をハンカチで拭き取り、ガーゼで傷口を覆って終わり。

「ありがとう」
「…別に」

視線を逸らしたまま、救急箱を受け取る。

「ごめんなさい。私の不注意でこうなって…救急箱もわざわざ家から持ってきてくれて、本当に助かった」
「ちょっと待ったああ!」
『!?』

突然の大きな声に二人はビクッと身体を震わせた。

「さっきから静かに話を聞いていれば…全部伽夜が悪いみたいじゃないかっ!」

二人の視線先―明が大久保を指差してきゃんきゃん、吠える犬のように言う。


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