確かに君は此処に居た
「び、美少年だったね・・」

伽夜の返事を聞くなり、由宇は伽夜の前を歩き出し、再び自転車を押し出した。
その背中がいささか、暗い。

「由宇?」
「あのね、伽夜。知ってる?昨日うちの高校じゃない子が昇降口前で倒れていたんだって」
「へえ、編入の下見じゃないの。稀にそんな人見掛けるし」
「そうかもね。とりあえず生徒が発見して、先生に知らせて救急車呼んだらしいんだ」
「それはさぞ大騒動だったろうね」

校内に倒れた人が居れば騒然と騒ぎになる。

「それがさ、後輩がその場に立ち合わせたんだけど、倒れた子が女の子っぽい美少年だったの」

『女の子っぽい美少年』

「え・・?」
「もしかして、伽夜に告白してきた子じゃないかな?」

心配そうな目で伽夜を見てくる。

『好きだよ、ずっと昔から今からも。・・例え、僕を覚えていなくても』

そう告げた少年の言葉はいささか、理解できないものだった。

「その子なんで倒れたの?」
「さあ?でも胸を押さえて倒れてたらしいから、心臓発作とかじゃないかな」
「心臓発作・・」
 
生命の中枢である心臓が痛むのはどのくらい痛いのだろうか。想像するだけでも、嫌な感じだ。

「倒れてどうなったかは知らないけれど、きっと学校に行ったらわかるよ」

救急車に運ばれた少年の容態を由宇は知らないらしい。

「…あ、そう。予習してきた?」
「予習?あ、数字ね。あんな意味が分からない問題、分かるはずないじゃん」
「だよね。由宇が分かるはずないか。私より数字駄目なのに」
「その通りだけど…何となく失礼だなあ!」

こら!と怒った由宇が手を振り上げ伽夜を叩こうとするのを交わす。笑いながら攻撃をかわしつつ、思い浮かんだ考えを思考の深いところへ追いやった。

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