確かに君は此処に居た
職員室は基本的にあまり入りたくない場所の1つだ。入る前に風紀をチェックしないといけないし、入ったら各席に座る先生に挨拶をしなければならない。それが面倒だった。時刻は9時47分。2限開始は10時。あと約15分だ。

「早川先生」

職員室の窓側の日当たりがいい席。ジャージ姿のその教師は新聞を見ながらコーヒーを飲んでいた。伽夜のクラスの体育担当をしている。背後から声を掛けると首をひねって振り返った。

「なんだ?」

伽夜の姿を確認すると、早川先生は椅子ごと伽夜へ向き直った。

「昨日…倒れた子はどんな格好でした?」

あくまでもこれは最終確認だ。

「全くまた、昨日のことか。お前らは噂好きだな。俺に聞きに来る行動力を別の事に生かせよ」
「……」

この様子だと確認するのも難しい。先生に生徒が好奇心に身を任せ聞きに来たのだろう。伽夜はとりあえず詫びを口にし、頭を下げ踵を返した。貴重な休み時間を返してほしい。たださえ予習が終わっていない。

「古嶋!」

呼び止められ、振り替える。振り替えれば、先生は新聞の代わりにファイルを手にしていた。

「下の名前は『カヤ』なのか?」
「そうですが」
「悪い。昨日の子は古嶋の知り合いだったんだな」

急に態度が謝罪へと変わった。ぱたんとファイルを閉じ、机に置いた。表紙に『3-1生徒個人情報』と書いてあったため、その中にある伽夜の情報を先生は見ていたと言える。

「あの少年、意識が無くなる前にお前の名前を何度も呼んでたぞ。心臓病だったらしいな。本当に残念だ」
「私の名前を呼んでいた…んですか」
「ああ。掠れるような小さい声で『カヤ』と何度もな」

目を伏せコーヒーを飲む先生は本当に悲しそうにしていた。その話のおかげで倒れた少年はあの少年だったと確信することが出来た。

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