秘密 ~生徒に恋して~
③ 彼の背中と夏の風
「葉月先生~!」
後ろから自転車に乗った悠也が追い掛けて来た。
「ボール当たったとこ、もう大丈夫か?ホント、ごめんな。どうなった?ちょっと見せてみな」
「ううん、大丈夫よ。もう殆んど痛くないし」
私は、心配そうな表情の悠也に、前髪を触りながら腫れた場所を見せないようにして笑いかける。
悠也は取り敢えず安心した顔を見せた。
「あのさ、この先で何か事故ってるらしくて、バスなかなか来ねえらしいぞ。バス停もスッゲー行列だって。さっきバス通学の奴が呟いてた。だから俺、送ってくよ」
「はっ?」
「チャリでわりぃけど。バスは長い間待っても乗れないかも知んねぇし、歩いて帰るよりマシだろ?」
「そうだけど…。これで二人乗りで帰るってこと?」
「ほら、他の先公に見つからないうちに!」
「私だって先生なんですけど~」
「堅いこと言わない!」
「片瀬くんさぁ…さっきのは別に練習中のことなんだし、責任感じなくていいよ」
「そんなんじゃねぇよ。俺、方向が一緒みたいだって聞いたし。ゴチャゴチャ言わずに乗れよ」
そこまで言って、悠也は私の姿を上から下へと見下ろした。
「けど、それじゃ跨がって乗る訳にはいかねぇな」
私のスカートは膝丈のタイト。絶対無理だ。
「横乗りでいいよ。掴まってりゃ大丈夫だろ」
強引な悠也に、断ってもムダなようなので仕方なく従うことにした。