秘密 ~生徒に恋して~
遠ざかって行く少し俯き加減の悠也の背中を、私はジッと見つめていた。
全く…何なんだ…アイツは。
後ろから声かけて、
「先生、髪に草ついてるよ」
と言ってくれれば、それでいいじゃない…。
腫れを確かめる為とは言え、急に人の前髪を掻き上げたり…。
眼鏡のことと言い、今のことと言い、女がドキッとするような言動を平気でする。
それも、下心などなく、嫌味もなく、ごく自然に…。
私を大人げないくらいこんなにときめかせてるのに、きっと何の意識もなく、気づいてさえいないだろう。
他の女の子も、自転車の後ろに乗せたり、誉めて喜ばせたり、本当に肩を抱き寄せたりもするのかな…
…するんだよね。
だってさっき言ってた。
『年頃の健全な男子』だって。
夕闇に吸い込まれて行く悠也の後ろ姿を、私は見えなくなるまで見送っていた。