秘密 ~生徒に恋して~
⑤ 彼の背中と朧月
10月も半ばのある日、私は勤務を終え、バスを待っていた。
バス待ちの人達の長蛇の列。
きっとどこかで事故でもあったのだろう。
台風や雪、事故等で、年に何度かはこういうことがある。
バスがいつ来るのか、満員に近いような状態で来たら乗り込むことができるのか、全く見当もつかない。
私は溜め息を一つつき、列の後方に並んだ。
悠也に自転車で送ってもらったのも、ちょうどこんな日だったな…
あの日、悠也の背中の後ろで揺られながら、バス待ちの行列の横を通り過ぎたことを思い出していた。
「葉月先生~!」
不意に道路の反対側から聞き慣れた声が聞こえた。
もう何日も、たまに少しだけ見かける程度で、ちゃんと顔を見ていなかった。
あまりの愛しさに涙が込み上げそうになる。
たった今、思い出していたばかりの悠也が、自転車に跨がり手を振っていた。