乙女は白馬に乗った王子を待っている

何だかいつもの調子がでない。ゆり子は目の前にあるビールを飲んだ。

「やっぱりビールは味が違いますね。私、いつもは発泡酒ばっかりだから、たまに飲むと美味しいなあ〜って思っちゃいます。」

「堅実だなー。」

「そりゃあ、派遣で1、2年ごとに職場を点々としてたら自然とそうなっちゃいますよ。」

「権藤はさ、何か、こんなことしたい、とかそういうの、ないの?」

「え?」

急に、自分のことを聞かれてゆり子は戸惑った。

「いやさ、研修とか面接で、いろいろ質問したりしてるけどさ、権藤自身はどうなの?こういうことをやってみたい、とかさ。」

見ると高橋は真面目くさった顔をしている。
じっと目を見つめられてゆり子はどぎまぎしてきた。何だか心の中を覗かれているような気がしてくる。

多分、漠然とした不安をいつも感じているのは、ゆり子自身にもどうしたいか、という進むべき道筋がよくわからないからなのかもしれない、ということにはっと気付いた。

ゆり子は急に黙り込んでしまった。

「……今まで、とにかく食い扶持を稼がなきゃ、ってことで頭がいっぱいだったから、あんまり考えた事、なかったかも知れません……。」

「そうか。でも、やりたいことがあるなら、どんどん挑戦した方がいいと思うよ。」

そういってゆり子をみる高橋の瞳は暖かい。


今日は、何だかいつもの高橋と少し違って……。


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