乙女は白馬に乗った王子を待っている
「あの……」

さやかが恐る恐る高橋に話しかける。

「何?」

「いえ、あの、どこに行きますか?」

「うーん、特に何も考えてないんだけど……、あ、ちょっとここに寄っていい?」

高橋は返事を聞かずに、通りがかった本屋にすたすたと入っていった。
雑誌のコーナーによって、週刊誌をチェックする。それから、平積みにしてある新刊を何冊か手に取っていた。

さやかは、前回までとは違う高橋の態度にすっかりうろたえてしまったけれど、なんとなく高橋の側で様子を伺っていると、高橋は、さやかの方を振り返った。

「あ、さやかちゃんも適当に好きな本、見ててよ。」

高橋は、それからも次から次へあちこち本を見て回り、結局その本屋をで出たのは一時間以上も経ってからのことだった。

「久しぶりに本屋でゆっくりしたよー、最近忙しかったから、あんまり本屋にいく時間がなかったんだよなー。」

明るく話しかけるところをみると、高橋の機嫌は悪くなさそうだった。
……しかし、本屋なんて女の子を誘っていくようなところだろうか?
しかも、高橋は、本屋にいる間中、さやかのことを気にかけるでもなく、独り好きな本を探して時間を潰しているだけのように見えた。

その日は、全てそんな調子で、何も特別なことをすることもなく、さやかは途中から何となく、盛り上がらない、白けた気分になってきた。

男は釣った魚にえさをやらない、というけれど、これが、そういうことなのか?

さやかは、自分がぞんざいに扱われたような気がして、ちょっと悲しくなる。


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