乙女は白馬に乗った王子を待っている
「やっぱり結婚以外に道はないのか………」
自分より10ぐらいも若い女の子が、今から結婚できなければ食うに困ると思い詰めているのだ。
「マジで婚活始めるしかないっしょ。」
「そんな、山村さんはまだまだ若いんだし焦ること、ないんじゃない?」
「でも、うかうかしてると権藤さんみたいになっちゃうじゃん。」
権藤さんみたいに?
月星の言葉は聞き捨てならなかった。
なのに彼女はわかりきったことだ、と言わんばかりに追い討ちをかける。
「仕事も不安定、結婚も出来ない、お先真っ暗じゃん。」
嫌味や皮肉をいっているわけではないことはゆり子にも分かる。
ただ単に過酷な現実を言い当てているだけだ。ゆり子は返す言葉もなかった。
「わ、私は別に、今まで振り返って後悔しているわけじゃないわよ。
それに、好きでもない人と結婚したって不幸になるだけだもの。」
強がってみせても、ゆり子の言葉に説得力はなかった。
結局契約の更新にびくびくしながら、将来を憂えてできる節約をいつでもしながらきゅうきゅうとなって暮らしているのが、今までのゆり子の現実だ。
今、たまたま正社員となったが、それだってただの巡り合わせというだけで、会社そのものが今にも潰れそうな状態だ。
30過ぎて、ビールを飲むか、第3のビールで我慢するか悩むような人生を送る事になるとは、誰が予測できただろう。
山村月星の派遣が順調なのは喜ばしいことであったが、どんよりとした気持ちで彼女のもとを去ったのだった。