乙女は白馬に乗った王子を待っている

この前社長から言われた言葉がふいに蘇って来た。

  『権藤はさ、何かやりたいこととかないの?』

やりたいこと? 
私は何がやりたいんだろう?

確かに、大学時代には何かやりたいことがあったような気がする。
でも、それは、「やりがいのある仕事」という何とも形にならないものだったような気がする……、それから結婚もして、子どもが生まれたら、二人で協力して育てて……、みたいな、漠然としたものでしかなかった。

もちろん、一生懸命働きたい、と思っていた気持ちは心からのものだったし、努力さえすれば、ゆり子にだってそういう人生はかなうはずだと信じていた。

それなのに……、どうであろう、就職活動の厳しさに、やみくもに働き口を探しているうちに、気がつけば、自分のやりたいことも、やれることも見失って、先々に怯えながら毎日を過ごすようになってしまった。

山村月星はどうするんだろう……?
彼女は婚活を始めるんだろうか?

昼の会話を思い出して、山村月星に思いを馳せる。

正直なところ、ゆり子よりも10歳も若い彼女のことが羨ましかった。

月星にはまだまだ時間がある。
それに引き換えゆり子は、時限爆弾が今にも爆発しそうだった。


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