乙女は白馬に乗った王子を待っている
乙女は白馬に乗った王子を待っている
そんな中、高橋が急にゆり子を飲みに誘って来た。
と言っても、残業があらかた片付いた夜の11時過ぎ、職場でビールを一本開けただけのことだ。
高橋は、お疲れさん、と言いながらグラスにビールを注いだ。
「さやかちゃん、何か言ってる?」
さぐりを入れたかったのか?
高橋がさやかのことを気にしているのが、面白くないといえば面白くないゆり子である。
「何ですか、急に。」
「ここのところ、会いたい、会いたい、ってすごくてさー。」
「……ああ。私も、高橋社長は、今、本当に忙しいからムリさせるな、って言ってるんですけどねぇ、
何しろ、さやかは乙女チックだから、ピンときてないみたいなんですよ。」
「……そんなことだろうとは思ってるんだけどね。」
「何か参ってますよね、社長。」
「うーん、こんだけ忙しいとさすがにさやかちゃんの相手をしてるヒマがなくってさあ、でも電話口で泣かれるとツラいんだよなぁ。」
仕事のことで疲れてきっている高橋にさらなるストレスをかけるのか、と思うとゆり子はさやかのことが小憎らしくなってくる。
「社長!そんなにさやかのこと甘やかす必要、ないですよ。大体、さやかは社長のことを全然理解してないじゃないですか。」
高橋は、ふっとゆり子の顔を見返した。
「どうしたの? 急にオレの事をそんなにかばってくれるなんて、いつもの毒のある権藤らしくないじゃない。」