乙女は白馬に乗った王子を待っている
「何か、今日はやけに熱心だったなー。」
はるかを送り出すと、高橋がしみじみとゆり子を見て言った。ゆり子は高橋をじっと見返す。
「社長がヘンなこと、言うからですよ。何か私も考えちゃって……。」
「ヘンなこと?」
「30過ぎたら、心おきなくビールを飲めるような人生にしてあげたいなぁ、とかね。」
「???」
「第3のビールなんて飲んじゃダメってことです。」
「……うん?」
高橋は、まだ何か聞きたそうな顔をしている。
その時、高橋のケータイが鳴った。
「……さやかちゃん。ん、今? うん、大丈夫だよ。」
電話の相手はさやからしい。
高橋はゆり子からすっと離れた。ちょっと離れたところから、明るくて朗らかな声が聞こえてくる。
盗み聞きをするつもりもなかったけれど、他に誰もいなく、しんとした職場にあっては、高橋の声がやけに響いた。