乙女は白馬に乗った王子を待っている
どうやら、今晩、二人でどこかに飲みに行くらしい。
残業のあと、二人でちょっとご飯でも食べて行くのではないか、と淡い期待をしていたゆり子は、アテが外れてガッカリした。
「デートですかぁ?」
聞こえなかったふりをするのも返ってわざとらしいように思われて、電話を終えた高橋に明るく話かけた。
「そんなとこかな。メシを食いに行こうかってね。権藤も来る?」
「……そんなヤボなこと、しませんよ。どうぞ、お二人で楽しんで来て下さい。」
「じゃ、そうさせて頂きますよ。」
高橋がさやかとデートなどするのに、自分だけ一人残って仕事をするのもばからしい。
ゆり子は高橋に当てつけた。
「そちらがデートでしたら、私も帰らせて頂いていいでしょうか。」
「そんなこと言わずに、もう少し手伝ってくれないかなぁ。」
高橋はにこにこと笑う。
大抵の女はこの笑顔を見せられたら、大概のことは許してしまうだろう。
ゆり子も例外ではなかった。
内心面白くなかったものの、嫌味を言う事も忘れてさわやかに答えた。
「……少しだけですよ。」
「おお、助かるよ! ありがとう。」
この満面の笑みを見てしまえば、怒る気も失せる。優香は力なく呟いた。
「……イケメンって得ですね。」
「まあね。」
そう言って、高橋はゆり子にウィンクをする。鼻歌を歌いながら、スキップせんばかりに陽気に仕事を片付ける高橋に、ゆり子は苦笑した。