乙女は白馬に乗った王子を待っている
二つの夜
一区切りつくところまで仕事をして会社を後にして気がついた。
今日は金曜日だ。
家に帰ってドラマを見なくては。きっと、翔太がやってくるであろう。
さやかがデートでいないであろうことに思い至って、ゆり子もちょっとウキウキした気分になった。
……さやかはデートだもん、いいよね、少しぐらいラッキーって思ったって。
翔太を奪うとか、そんな大それた気持ちがあったわけでもないが、やっぱり二人きりになれそうだ、と思うと心はときめく。
足は自然と成城石井に向かった。住宅街のすぐ側にあるこのスーパーは、ゆり子のような一人暮らしの通勤客をターゲットに遅くまでやっている。
ちょっと値が張るので、めったに利用しないが、置いてある肉や野菜はワンランク上のものが多い。
それに、おつまみになりそうな菓子や総菜類も種類豊富で閉店間際の時間に駆け込めば、ささやかな贅沢が手頃な値段で味わえるのであった。
二人で飲み食いすることを考えて頬が緩む。
翔太のために、好物のソーセージと、見切り品になっていたお刺身の詰め合わせを選ぶ。
枝豆が茎つきで売っていて、あっさり塩ゆでしたら美味しいに違いないと手が伸びた。
久保田と一緒に食べたらいくらでも入りそうだった。
他にもサラダを出そうとか、さきいかも好きだったよなァとか店内をチェックしながら、なんだか妻のようだと一人妄想し、ゆり子は顔を赤くした。