乙女は白馬に乗った王子を待っている

イケメン専務と有村美香はすれ違ったままだ。
一方、事故にあった婚約者は、病床で、瞳をうるませてイケメン専務を見つめていた。

『……ごめんなさい、引き留めて。本当は、あなたが美香さんのところに行きたいの、わかってるの。
 それなのに……、私、あなたのことが忘れられなくて……。』

その言葉を聞いて、イケメン専務は思わず婚約者を抱きしめる。

『……安心して。オレはいつでも君のそばにいるよ。』



「え〜〜〜!!」

二人は同時に声をあげた。

ゆり子と翔太は顔を見合わせて、ぷっと吹き出した。
それまでの気まずい沈黙が嘘のように、二人とも饒舌にしゃべりだした。

「まさかの展開!? ちょ、ちょっとイケメン専務、有村美香を裏切ったよ?」

「婚約者にほだされたよなー。」

「ひどくない?」

「んー、オレ、ちょっとわかるかも。なんか、婚約者も健気っつーか、あそこまで一生懸命だと、無下にはできないっつーか……。」

翔太はゆり子の目をじっと見つめて、ぎゅっと彼女の手を握った。

「……オレたちもさ、付き合ってみない?」

「さやかのことを忘れたいから?」

ああ〜、どうして、私って、こう、余計なこと聞いちゃうのかしら。
ここは潤んだ目でこっくりうなづかなくっちゃダメじゃねーか!!

ゆり子はココロの中で自分の嫌味に舌打ちする。

翔太に真剣な目で見つめられているうちにますます心が乱れた。

「んー、さやかちゃんのことは……、忘れた方がいいかなーって。
 何かオレのことなんか全然だし、二人がうまくいってるなら祝福しなきゃね。
 でも! こんなこと言うのは、それだけじゃないよ。」

「……ほだされた?」

ああ!私ってば、また余計なツッコミ入れて〜〜。
自分で自分を呪いたくなるゆり子である。

それでも、翔太は気を悪くする事もなく、照れた顔をしてポツリと呟いた。

「男前のくせに、一生懸命で、可愛いなーなんて。」

翔太は、ゆり子の手をぎゅっと握ると、顔を近づけてゆっくりと唇を重ねた。



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