乙女は白馬に乗った王子を待っている

「そう言えば、翔太のコーヒーの好みなんて知らなかったなあー。考えてみれば、朝会うなんてなかったもんねぇ。」

「ちょっとやらしくない、その言い方?」

「え!? あ……、そう、そうか、そうかも。」

そこで会話が途切れてごそごそという音に変わる。
すぐにゆり子の笑い声が聞こえてきた。

「ちょ、ちょっとー、朝っぱらからやめてよー、翔太。」

「止めない、ゆり子さんの困った顔、可愛いんだもん。」

さやかはいよいよ気まずい。
ドアを開けるべきか、耳をふさいで布団にもぐりこんでしまうか。

そうしている間にも二人がくすくすと笑う声が聞こえてくる。

「くすぐったいよ、翔太。」

さやかの妄想はとめどなく広がる。

も、もしかしてアンナコトとかコンナコトとかしてるんだろうか。

今まで読んだマンガのシーンが走馬灯のように次々と浮かんでは消える。
さやかは、迷いに迷って―、耳をそばだててドアの隙間からリビングを覗いた。

二人はさやかが想像した通りのことをしていた。
予想と違ったのは、ゆり子も翔太もすごく楽しそうな顔だったことだった。さやかはゆり子のあんな顔を見た事がない。

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