乙女は白馬に乗った王子を待っている
そう思った瞬間、さやかはバランスを崩して派手な音をたてて前のめりに倒れた。
その拍子にドアが開いてさやかは部屋から転がり出た。
「さやか!? 帰ってたの!?」
ゆり子はさやかの姿を確認するなり、それだけ叫ぶと絶句した。
驚きすぎて、パジャマのボタンが半分ぐらいまで外れているのにも気付いてないようだった。
翔太はしばらくじっとさやかを見つめる。翔太はごくりとつばを飲みこんだ。
「……おはよう。」
「……お、おはよう。な、なんか、ものすごくびっくりしてるんだけど、……この状況。」
さやかはしどろもどろだった。
「…こういうことになっちゃって。」
翔太は、ぽりぽりと頭を掻きながら、ゆり子を後ろからさりげなく抱きしめた。そのまま、照れたようにゆり子の肩を抱いている。
あ、あすなろ抱き!?(さやか、古すぎるだろ!!!)
ど、ドラマみたいじゃない!!
ドラマどころか、
まるで―、さやかがいつか読んだ少女マンガのワンシーンそのものだ。
「い、痛いよ、翔太。」
無意識のうちに肩を抱きしめたその力が強すぎたのか、ゆり子が声をあげた。
「あ! ゴメン、ゆり子さん。」
翔太は、すっと手を緩めると、後ろからゆり子の頬に軽くキスをする。
だ、だめだ……、刺激が強すぎる……。
「ご、ごゆっくり……。」
さやかは絞り出すような声でそれだけ言うと、自分の部屋に逆戻りしてばたんと戸を閉めた。