乙女は白馬に乗った王子を待っている

息をひそめて、自分の部屋に潜伏すること小一時間。

「翔太帰ったから出ておいでよー。」

リビングからゆり子が声をかけてきた。

どんな顔でゆり子を見ればいいのか?
何だか、さやかの方が気恥ずかしい。

のっそりと部屋を出ると、ゆり子の方を見ずに話しかけた。

「いつの間にそういうことになっちゃったわけ?」

「夕べ。」

ゆり子は手にしたマグカップを弄びながら答えた。

顔がにやついている。
きっと、昨晩のことを思い出しているのだろう。

……そう思ったら、急に、こんな質問しなければ良かった、とさやかは後悔する。

ゆり子は嬉しさが隠しきれない、という顔をしていた。

「いきなり?」

突っ込まれて、どう答えたらいいかゆり子はちょっと迷った。

本当のことをいうのがフェアだ、という気がしていたが、やっぱり、翔太がずっとさやかのことを好きだった、というのは隠しておきたい。

結局、翔太の気持ちに気付かなかった鈍感なさやかも悪い……はずだ。

「……なんか、何となく、そういう雰囲気になって。」

「ふーーん。」

努めて冷静な声で答えようとしていたが、思ったよりも冷ややかな声で、さやかは我ながらぎょっとした。


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