乙女は白馬に乗った王子を待っている
「ごめんね、今朝は。翔太も私も、さやかは社長のところにいるとばっかり思ったからさー。」
「うん、……びっくりした。」
「今度からは、絶対こういうことないようにするから。
何たって翔太は隣りに住んでるんだし、私が向こうに行けばいいだけの話だから。」
ゆり子はさらりと答えた。
面白くない。
さやかは、屈託なく話すゆり子が面白くなかった。
「……ホント、ゴメン。まだ、怒ってる?」
ゆり子が上目遣いでさやかを見る。
こんな風に気を遣うのはゆり子にしては珍しいことだった。
さやかは少し慌てる。
「え、別に怒ってないよ?」
「ホント? なら、いいけど。なんかムッとした顔してるから。」
「そんなことないよ。急にだったからすごくびっくりしただけ。」
「そっか。……だよねー。何か、私も急な展開すぎて、まだ何が起きたかちょっと信じられないからさ。」
少し俯き加減で照れながらぽつりぽつりと呟くゆり子は、さやかの知っているゆり子ではないような気がした。