乙女は白馬に乗った王子を待っている
「社長〜〜、私、正直感動しています。
こんなにちゃんと給料が支払われるとは夢にも思いませんでした。」
「そう言ってもらえると光栄だな、こちらも。
オレとしては給与そのものももう少しあげたいんだけど、それは実績を積んで徐々に、ってことで。」
ゆり子は感動した。
「さらに儲けが少なくなっちゃいますよ。良いんですか?」
「まあ、元手のかかる会社じゃないし、赤字にならなければいいのさ。
ちなみに、まだまだばっちり赤字だから、そこんとこよろしくね。」
帳簿を見せてもらうと、なるほど、少しずつ経営状況は上向いているようにも見えるが、赤字の積み重なりは結構なものになっている。
「ほんとだ…、これ、いつつぶれてもおかしくないじゃないですか。」
「何、権藤、決算書も読めるの?」
「……まあ、基本的なことなら何とかわかります。」
「じゃ、経理もやってもらおうかな。」
「はいはい、何でもやりますよ。」
社員が一人しかいないとなれば、出来る事は何でもやらなければならない。
それに、高橋がゆり子をアテにしてくれているので、やっぱり期待に応えたい気持ちがあった。
しかも、グッドスタッフカンパニー自体、少しずつだが、軌道に乗って来ているような気もする。問い合わせの件数が大いに増えていたし、派遣先から電話を受けたりすることも増えて来ていたからだ。
何とか、田中さんが辞めたころのような、ギリギリの瀬戸際状態は抜けたようだった。
まさに、仕事も順調、恋も順調。
つい数週間前までは、どうしようもない不安を感じていたのがなんだかウソのようだった。