乙女は白馬に乗った王子を待っている
「……だって、さやかちゃんには、今はカレシがいるからさ、あんまりつきまとったりしても悪いかな……ってね。」
翔太の優しい心遣いが身に沁みる。そうだ、翔太は、不器用だけど、誠実で細やかな気遣いのある人だった。
「……なんか、ゆりちゃんが羨ましいなァ。」
さやかは夜空の星に息を吹きかけた。
翔太の顔をじっと見たり、下を向いたら、抑えていた涙がほろりとこぼれ落ちてきそうだった。
「何かあったの?」
「……高橋さんがね、全然連絡くれないの。何か、いつまで待ってればいいのかなーって……。」
「でも、高橋さんって社長だろ?
仕事が忙しいんじゃないのんかな。ゆり子さんだって、すごく忙しいって言ってるし。」
「翔太は、それで大丈夫なの? ゆりちゃんに会えなくても平気なの?」
翔太は、自分とは目を合わせないで天を仰いで必死に涙を抑えるさやかの姿が何だか哀れに思えた。
「まあ、寂しい気持ちはあるけどね、ゆり子さんが頑張ってるなら応援するしかないじゃん。」
「………翔太って、優しいなあ……。やっぱりゆりちゃんが羨ましいなあ〜。」
「……そういうの、ヘビの生殺し。」
ほとんど聞き取れないような低い声で翔太は呟いた。
「え? 何? 何か言った?」
「ん? いや、別に。」
それっきり、会話は途切れた。
さっきまで星を眺めていたさやかは、気がつけば前を向いている。
さやかの横顔は穏やかで、いつもの無邪気な顔だった。
翔太は、家までの道がもう少し長く続けばいいのに、と思ってしまう。