乙女は白馬に乗った王子を待っている
もしかすると現実はドラマより素敵なのかもしれない
木曜日の夕方、田中さんがひょっこり事務所に現れた。
田中さんは、クリーム色のツイードのスーツに、おそろいのクリーム色のかかとの低いパンプスという落ち着いた格好だった。
仕事の出来る人なのだが、いかにも肝っ玉母さんというような、包み込むような大らかな雰囲気があり、それこそヤッちゃんからギャルまで多くの人を虜にしてしまう素敵な人だった。
ゆり子もほんの半年ほど一緒に働いただけだったのだが、何度となく田中さんには助けられていた。
ゆり子の姿を見つけると、にこにこと懐かしそうな顔で、ゆり子に笑いかけた。
「権藤さん、お久しぶり。」
「田中さ〜ん、待ってましたよ〜〜!」
「お仕事が順調なんですって?」
「そうなんです。あれからウソみたいに忙しくなっちゃって……、本当に月曜日からこちらに来れるんですか?」
「ええ。それで、きょうはご挨拶に、と思ってね。
私の後任には、ここの派遣の人を充てたっていうから、社長もあれでなかなか大したものよね。」
そう言って、田中さんはくすくすと笑った。
それから、田中さんは声をひそめて、まるで重大な秘密を打ち明けるかのようにゆり子に話しかける。