乙女は白馬に乗った王子を待っている
「実はね、私の今の上司ってアラフィフの社長夫人なの。
ほら、町工場のおっさんが社長で、その奥さんが副社長で事務やってます、みたいな?
で、高橋社長が手みやげを持っていって、例の笑顔で懇願したらイチコロよ。」
「…………。」
ゆり子は呆れた。
「高橋社長って、なんか憎めないものね。男前だし。」
田中さんは、社長夫人が丸め込まれた様子を事細かに話して聞かせた。
困ったような照れたような顔で頼みこんだらしい。
モデルばりの容姿に甘いマスク、ユーモアがあるのに誠実な態度。
コロリと参ってしまったらしい。
しまいには、社長夫人の姪と見合いをしないか、と言われたから大したものだ。
「私がもう少し若くて、お父ちゃんがいなければ、姪なんて言わないんだけどねぇ。」
と社長夫人が言ったら、高橋社長はすかさず、
「本当に。美しい人は、年を重ねてますます素敵になりますから、社長がいらっしゃって残念ですよ。」
などとぬけぬけと言ったらしい。
「ほんっと、女とみれば見境ないんだから……。」
社長夫人が真に受けたらどうすんのよ、なんて余計な心配をするゆり子である。