乙女は白馬に乗った王子を待っている

翔太はくすくす笑い出した。

「ゆり子さん、相変わらずの毒舌だなー。」

「も、絶対、翔太の方がいいよ。堅実だし、借金もないし、
 ほら、こうしてビールのグラスもちゃんと用意してくれるし。」

トン、とグラスを置いた拍子にゆり子の手が翔太の手に触れた。

ドキッとする。

「……あ、ごめん、翔太。」

「全然。気にすんなー。」

翔太が軽く微笑む。
さっきから意識してるのはゆり子だけのようだった。

こたつに並べられたごはんをすっかり平らげてビールを一本ずつ空けると、じゃ、と言って翔太はさくっと帰っていった。

きっと、残った一本はさやかのために置いておいたに違いない。ゆり子は冷蔵庫にビールをしまいながら、虚しい気持ちに襲われていた。完全に「仲のいい友だち」ポジションだ。かと言って、このバランスを崩す勇気はなかった。

一人で後片付けをしていると、さやかの「ただ今〜」というのん気な声が聞こえる。
ゆり子はリビングに入って来たさやかに、片付けの手を休める事なく合コンの話をした。

「来週の金曜日大丈夫?社長が合コンしてもいい、って言ってたんだけど。」

「ホントー!?ありがとうー、ゆりちゃん。さやか、楽しみ〜〜!」

さやかの喜ぶ顔をみて、ゆり子は少しだけ胸が痛んだ。
合コンでゆり子は惨敗するに違いない。

さやかは楽しげに鼻歌を歌いながら、タンスの服を物色している。
どこまでものん気なさやかだが、ここまでイタいともう手の施しようがなかった。


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