乙女は白馬に乗った王子を待っている
 さやかは一人で盛り上がっている。
 
 諦めろ。
 30過ぎて、痛すぎる。
 
 ゆり子が冷ややかな顔をして、自分のコップに無言でどぼどぼ久保田を注いでいるのに、さやかと翔太は全く気付いていない。
 
 翔太は人のいい笑顔をさやかに向けた。
 
 「大丈夫だよ、さやかちゃんは可愛いから、きっと王子様が迎えに来るよ。」
 
 「白馬に乗って?」
 
 「イケメン専務ならベンツじゃね?」 
 
 「あー、私にも早く王子様が来てくれないかなー。」
 
 さやかよ、どこのネジが緩んでる? 締め直してあげようか?
 
待ちぼうけをくらって31年。このままボーッと待ってたらすぐに100歳のばーちゃんだぜよ。
 
 ゆり子は久保田を飲み干したコップをこたつにどん!と置いた。

「翔太、そうやってさやかを甘やかすのやめてちょうだい。
 こんなんだから、31にもなってフリーター、しかも半年以上は勤まらない、夢見る夢子ちゃんが増幅されちゃうのよ。」
 
 翔太は、ゆり子の迫力に目をしばたかせた。
 
 「どした? ゆり子さん。今日はまた、いつもにも増して毒舌じゃんよ。会社で何かあったか?」



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