乙女は白馬に乗った王子を待っている

小さなコの字型のカウンターは、十人も座れば一杯だ。

その日、ゆり子が店に着いた時には、麻衣はすでにすみの方にちょこんと座って飲み始めていた。

くたびれたオヤジといかにもカネのなさそうな貧乏学生の中で、麻衣は異彩を放っていた。
ばっちり決めたメークに隙のないヘア、高そうなスーツでどう見ても「お嬢さんが社会勉強に場末の酒場にやってきました」な雰囲気しかなかった。

しかし、そんな世間の好奇心いっぱいの視線など、全く気にすることなく、一人悠々と焼酎と焼き鳥を楽しんでいる。
ゆり子に気がつくと、軽く手をあげた。

「権藤先輩〜、お久しぶりですぅ。元気ですか?」

「何とかね。」

「先輩、何頼みます?」

「んー、ビールでいいかな。」

ゆり子はカウンターの中にいるおっちゃんに生を一杯頼んだ。

「つまみは?」

「あ、アンタのこの枝豆少しもらっていい?」

「またぁ、後輩にたかって情けなくないんですかぁ、権藤先輩。」

「アンタは特別。困ってないんだから少しぐらいいいじゃない。」

「しょうがないなぁ。」

ブツブツいいながらも、人のいい麻衣は、いつもゆり子の分のおつまみを頼んでくれる。


< 51 / 212 >

この作品をシェア

pagetop