乙女は白馬に乗った王子を待っている

「相変わらずケチケチしてるんですか、権藤先輩は。」 

「そうよ。だって、派遣なんていつ首切られるかわかんないし、給料があがるなんてこともないし、正直カツカツだもん。
 実家に住んで、大企業の正社員として勤めてるアンタにはアタシのこの苦労はわかんないよ。」

「はいはい。じゃ、ここはアタシが奢りますから、飲んじゃって下さい。」

「ホントに!?じゃあ、コンビニでおむすび食べて来なきゃ良かったよぉ〜。」

「うわあ、先輩、ホントケチですね。」

麻衣は可愛い顔して容赦ない。

「相変わらず空気読めないね。アンタ、職場でいじめられてるんじゃない?」

麻衣は、以前ゆり子が派遣されていた大手商社の新入社員だったのである。
その当時、麻衣は右も左もわからない上に、うっかり失言が多く、周囲からは冷たい目で見られていた。

「あー、わかりますぅ?女同士の醜い争いばっかですよォ。
 この前なんか、グッチの新作を持っていったら、先輩から『そういうバッグは、仕事ができないのに持ってると返って惨めなんじゃない?』とか言われましたよー。
 ったく、自分が買えないからって、こっちに当たるんじゃないっつーの、ねぇ、先輩。」

「あー、それ、私もアンタを殴り飛ばしたくなるわ。コネ入社の出来ない社員のこれ見よがしって、いっちばん、頭にくるのよ。」

「うわっ、先輩までお局発言、止めて下さいよぉ〜。」

「止めて欲しけりゃ、もう一杯奢って。」

「しょうがないなぁー。」

ここで、屈託なく頼むのが麻衣のいいところである。
案外とさっぱりしていて、万事おっとり気にしないので、ゆり子も気がおけない。
同じ職場にいた時は、会社の人の悪口を言い合って大いに盛り上がっていた。




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