乙女は白馬に乗った王子を待っている
こじらせる女
高橋は、こんな調子で、「とりあえず」ゆり子に仕事を振ってくるので、ゆり子は極めて広範で雑多な仕事をするはめになっていた。
儲けが出てない割に妙に忙しくて慌ただしい。
「社長、言ってもいいですか?」
「何だ?」
「すっごい、ブラック企業ですよ、ウチ。私、結構残業してるんですけど、本当にお給料出るんですよね?」
「それは、権藤の働き次第でしょう。ホラ、あの通訳も決まらないしさー。他社に持ってかれそうなんだよ。まあ、儲けが出るよう頑張ってくれ。」
「……社長。」
「んー? なんだー?」
高橋はパソコンの画面に視線を注いだまま生返事をした。
「……いえ、何でもありません。」
どうも、あの合コン以来、高橋に対してヘンな遠慮ができてしまって、ゆり子はまた言葉を飲み込んだ。
さやかのことを聞きたいが、しかし、ゆり子が以前高橋に向かって言った通り、二人のことはプライベートなことに違いなく、ゆり子が口出しをする筋合いもないはずだった。
「あの……、何かやることありますか?」
「んー、今日はもうないかな。」
「じゃ、お先に失礼してもいいでしょうか。」
「いいけど…、あと十分ぐらい待ってくれない?そしたら、オレも終わるから、一緒に飯でも食べていかないか? 時間があるなら。」
「あ、はい!」
「お、そんなに張り切った返事しなくても。タダ飯となると、本当に声が明るくなるなあ、権藤は。」
高橋は呆れたが、ゆり子はそんなことは全然気にならなかった。
いくら高橋であろうと、一人家に帰って味気ないキャベツ料理を食べるよりは余程よかった。