乙女は白馬に乗った王子を待っている
程よく飲み食いして、もうすぐお開きにしよう、という頃、東城が唐突に、カラオケにいかないかと提案した。
「カラオケか〜、どうする?」
高橋が東城の言葉を受けた。
ゆり子は、再びテーブルの下で高橋のスネを蹴った。今度は思い切り。
「ったあ!」
高橋が軽く悲鳴をあげる。
「ん?どうした、高橋。」
「いや……何でもない。」
高橋は、ゆり子の鋭い視線に気付くと慌ててつけたした。
「あ……、オレ、ちょっと業務が残ってるの、思い出した。会社に戻んなくちゃいけないんだよなー。」
「え〜、そうなんですか、高橋さん。この後バーに連れて行ってくれるかと思ったのにぃ。」
さやかが甘えた声をだす。
ここで東城と二人残されてはたまらない。ゆり子は慌てて援護射撃をした。
「そうだ、社長、今日中って言ってたヤツのことじゃないですか 私もすっかり忘れてました。手伝いますよ。」
「お、そうか、悪いな、権藤。助かるよ。」
「残業代は頂きますからね。」
ゆり子が軽く高橋を睨みつけると、高橋は口を開けて陽気に笑った。
「そうだな、はずんどくよ。」
会計をすませると、東城とさやかは駅の方へ、高橋とゆり子は会社の方へと別れた。