乙女は白馬に乗った王子を待っている
高橋とゆり子は無言で歩く。
しばらく歩いて振り返ると、東城とさやかの姿はどこかへ消えていた。
二人は顔を見合わせて、声を立てて笑い出した。
「だから、何の業務ですか、社長。」
「全くだな。」
「……帰りますか。」
二人はくるりと向きを変えて駅の方へ向かった。少し歩いたところで、高橋は急に狭い路地裏に入っていく。
「……ちょっと一杯やってかない?」
高橋は立ち止まった。
「ここなんだけど、どう?」
ゆり子の返事を待たずに中に入って行く。
階段を下りて、重厚な、それでいて温かみのある木の扉を開けると、中はこじんまりとしたバーだった。
高い天井につけられたファンからは程よい風が送り込まれている。
五人も座れば一杯になってしまいそうなカウンターに着きながら、高橋はミックスナッツとワインを頼んだ。
「ここ、よくいらっしゃるんですか?」
「たまにだけどね。」