乙女は白馬に乗った王子を待っている
高橋がグラスを傾けながら答えると、店主らしい男がカウンターの奥から口を挟む。
「いつもごひいきにして下さってるんですよ。でも、社長が女性の方を連れていらっしゃるのは初めてじゃないですか。」
「そうなの? 何かさやかに悪いなあ。」
「一緒に酒飲むぐらい別にいいだろ。」
高橋は事も無げに言った。
「さやかは、気にするんじゃないですか。」
「そうなんだよなァ。」
「また、その言い方。大事にして下さいよ、さやかのこと。」
「してるよ。さっきも聞いただろう、日曜日のデートの話。さやかちゃんが喜ぶように考えたんだからさ。」
「びっくりしました。初デートでクルーズディナーなんてずいぶん奮発しましたねぇ。私のお給料使い込んでないでしょうね。」
「怖い目で睨んでたよね、その話をさやかちゃんがした時。足を蹴られるかと思ったよ。」
高橋はゆり子をみて軽く片目をつぶってみせた。
いたずらっぽい目をした高橋の笑顔にどぎまぎする。
テーブルの下の二人の会話をさやかたちは知らない。さやかの来た事のない秘密の隠れ家のようなバーで高橋と軽い会話を交わす。
なんだかスリリングで興奮した。
二人でワインを一本開けてしまうとバーを後にした。
「遅刻するなよ。」
別れ際に高橋はゆり子の背中に声をかけた。