乙女は白馬に乗った王子を待っている
次の日、あんなにしこたま飲んだのに、ゆり子は目覚ましが鳴る前に自然と目が覚めた。
朝の光がさんさんと差し込む部屋でゆり子は大きく伸びをした。
ふとんから飛び出して、食パンをトースターに差し込む。
タイマーをかけてコーヒーをセットした。間もなくこぽこぽという音とともに、コーヒーの芳ばしい香りが部屋に漂う。
ゆでておいた卵と、ジャムを取り出して朝食にする。ジャムは贅沢品なので、早起きできた時だけのご褒美だ。
ラジオからはジャスティンビーバーの軽快なリズムが聞こえてくる。
爽やかな朝だった。
朝食もあらかた食べ終わるころ、さやかがのっそりと起きてきた。
「夕べはずいぶんと遅かったね。残業大変だった?」
さやかは、ふああとあくびをしながら、コーヒーを注いだ。
「まあね。残業代もロクに出ないのに、ほんとこき使われて大変だよ。」
すらすらと言葉が出て来るのに、ゆり子は自分でも驚いた。
罪悪感なんて全く感じない。むしろ、夕べのスリリングな気持ちを思いだして、背中がぞくぞくしてくる。
私、こんなに意地がわるかったっけ……?
自分の心を省みたのは一瞬だけだった。次の瞬間には、ゆり子はつまらなそうな顔で、
「つぶれそうな会社だから仕方ないんだけどね。」
小さなため息とともに呟いた。