乙女は白馬に乗った王子を待っている
金曜日、恒例のドラマ鑑賞だ。
さやかは今週も期待に胸をふくらませ、いそいそと準備していた。季節限定とかいう、つぶつぶ苺味のコアラのマーチが今晩のお供らしい。ゆり子は柿の種とポテトチップスをこたつの上に置いた。
地味OL、有村美香は、あんなにチャラいのに、イケメン専務を信じている。
前回、美香が専務のマンションまでやってきて入り口のところでウロウロしていたところに、専務が帰って来た。
驚いた専務は、美香を抱きしめると、耳元で彼女にささやいた。
「オレが好きなのはお前だけだ、信じて欲しい。」
美香を抱きしめながらも、複雑な顔をする専務のアップで先週は終わった。
先週のラストシーンの再現を見ながら、ゆり子は文句を垂れた。
「大体さ〜、これって、体のいい二股だよねぇ、このイケメン専務。だって、マンションに帰ってくる前は、婚約者と会ってた訳じゃん。」
「そんなことないよ、ゆりちゃん。イケメン専務は優しいから、婚約者を傷つけたくないんだよ。」
さやかはあくまでイケメン専務の味方である。
ゆり子は、最初はイケメン専務に同情していたものの、あまりのヘタレっぷりに、最近はイライラの方が募る。
最も、イライラの原因はドラマだけではなかったかもしれないが。
「それって、結局優柔不断なだけじゃない。私は嫌だね、こういう男。絶対浮気するよ。」
私は何をムキになってるんだ? たかが、夜中の三流ドラマの話じゃあないか。
ゆり子は第3のビールをぐいっと飲み干した。