乙女は白馬に乗った王子を待っている
二つのデート
小降りの雨がふったりやんだりしている土曜日だった。
こんな不景気な天気の日は布団から出て来るのが億劫だ。ずるずると朝寝を決め込んでいるうちに、お昼近くになっていた。
さやかはとっくに出かけ、翔太もいない。家の掃除をして、買い出しにでも行くか…などとぼんやり思っていた時、ケータイが鳴った。
「おはようございます、東城です。飯でも食いに行きませんか。」
……タダ飯にありつけるのか? それとも割り勘か?
いやいや、相手は40すぎの社長だぞ、いくら何でも割り勘はないだろ?
相手が誰であろうと、タダ飯の可能性があれば考えてしまうのが、悲しいかな、貧乏暮らしの長過ぎるゆり子の習性になっていた。
電話口で黙っていると、東城は続けた。
「表参道に新しく出来た、ブランチが美味しいと評判のカフェがあるんですよ。よかったら、ご馳走しますよ。」
程なくして、東城がゆり子を迎えに来た。
玄関に出てみると、カジュアルなシャツをおしゃれに着こなした東城が笑顔で立っている。
赤紫から青い色までのグラデーションが見事なあじさいの花束を手にしていた。
「どうぞ。」
東城は花束をゆり子に渡してから、車までエスコートした。
入り口に停めてある車はBMWだ。さりげなく助手席のドアを開けて、ゆり子を中に滑り込ませる。
何と言うか……、かなり意外だった。