雨音の周波数
「ちょっと待っててください。社に電話をしてきます」と言って、前田さんは携帯電話を持って会議室を出て行った。数分後には「大丈夫です。十二セット」と言いながら戻ってきた。

 会議室はなぜか拍手に包まれた。優秀な前田さんのおかげでレーティング期間も乗り切れそうだ。


 四月に入り『to place』がスタートした。リスナーからのメールを読むと『to time』のリスナーがそのまま引き継がれているようだった。

 それもそうだ。パーソナリティーである中島徹。彼のファンが多いのだ。中島さんの声はイケボ――イケメンを想像させるような声――だから。イケボの中島さんがイケメンかどうか。答えは爽やかなフツメンだ。コンビニで愛想のいい店員さん、私はそれがしっくりくる。

 もちろん中島さんの魅力は声だけではない。誠実な話し方と軽快なトークは聴いていて心地がいい。

 中島さんは私と同じ株式会社SAKUMAの人間。うちの会社で唯一のパーソナリティー。そのため放送作家として非常に仕事がしやすい。

 ブースにいる中島さんがリスナーからのメールを読み上げる。

「ラジオネーム、葉菜さん。徹さん、スタッフのみなさん、こんにちは。こんにちは、葉菜さん。メールのお題『to place』でやって欲しい企画ですが、私はラジオドラマが聴きたいです。昨年の十二月にクリスマス特番で放送されたラジオドラマがとても面白かったです。主婦をしていると本を読む時間が取れなくて、耳でする読書という感じがしました」

 これは意外だった。あのラジオドラマは確かに反響があった。でも、こういう形でまた出てくるとは思わなかった。

< 14 / 79 >

この作品をシェア

pagetop