雨音の周波数
 石井に密着するように歩くのが恥ずかしくて少し距離を開けた。すると傘が少しだけ私の方へ寄ってく。そのせいで石井の肩が濡れてしまった。

「ごめん。肩、濡れちゃったよね」

 恥ずかしい気持ちを堪えて、自分から近づき、傘の柄を指で少し押した。そうすることでギリギリだけど傘の中に収まることができる。

 好きだと自覚しても、石井とは自然に話せていた。一瞬、ドキッとしても落ち着いていられた。

 それが今日はできない。歩いていると石井の腕が私の肩に当たるときがある。そのたびに心臓がバクバクしてしまう。挙動不審にならないように普通を装ってみるけど、できているのかわからない。

「小野」
「はい」

 あ、声裏返っちゃった。

「いきなりごめん」
「ううん。大丈夫」
「時間あるかな?」
「うん」
「ちょっと、付き合って」と言って、石井は目の前にある公園を指さした。

 雨が降っているせいで人は誰もいない。大きな木の下で石井が立ち止まった。

「あの……さ、えーっと」

 声を絞り出すように石井が口を開く。私は雨の中、黙って耳を澄ました。

「あ、の、す……、ああーちょっと待って!」

 急に大きな声で言われたせいで、反射的に「はい」と返した。

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