雨音の周波数
 石井は傘を持っている右手で私の二の腕を掴んだ。そして残りの空いている手で私の手首を掴み、石井の方へ体が引き寄せられる。私たちは一本の傘の下で向かい合っていた。

「大好きです。付き合ってください」

 勢いよく言った石井の顔は、みるみる赤くなった。その顔をもう少し見ていていたくてじっと見つめる。

 嬉しい。同じ気持ちだったんだ。

 掴まれていた手首を解くと石井は悲しそうな目をした。自由になった手で石井の左手を握った。初めて触れた手は大きくて温かい。

「はい。よろしくお願いします」

 石井は「やばい、すごい嬉しい」と言って、私の額に自分の額を合わせてくる。お互いなんだかむず痒いような嬉しさを感じ、照れ笑いをした。

 圭吾と付き合い始めたことを友だちに報告すると「まだ付き合ってなかったんだ」と驚かれた。

 私たちは順調に付き合っていた。休みの日には映画館、水族館、遊園地などに行き、試験が近づけば図書館で勉強を教えあった。

 お互いの家も遊びに行くようになり、初めてのキスは私の部屋だった。その日の夜は自分の部屋にいるのが恥ずかしくて、ベッドの上でドキドキしてしまい眠れなかった。

 そして高二の冬休み、圭吾の部屋で結ばれた。お互い初めてだった。途切れ途切れの会話をしながら、相手の体温が自分の体温と混ざり合っていくのを感じた。そのとき圭吾をもっと好きになった。

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