雨音の周波数
 今年の十二月二十三日にクリスマス特番として放送されることが決まったラジオドラマ。その脚本を私が担当することになった。入社して七年。やっと私の夢が叶おうとしている。

 私が勤めている株式会社SAKUMAはラジオ番組制作がメインの会社。

 社長である佐久間さんは有名な放送作家で、ラジオ業界にいる人なら誰もが知っている人だ。そして佐久間さんと私は師弟の間柄で、入社からずっと放送作家としての技術を学んでいる。

 季節外れのことを考えるのは思っていた以上に大変だ。頭の中にクリスマスっぽいものを浮かべても、入道雲や海が突然乱入してくる。

 あーあ。クリスマスって、いい思い出ないんだよね。それ以前に、恋愛にいい思い出があまりない。

 放送作家の仕事は時間帯が不規則だ。深夜枠のラジオを担当すれば夜型の生活になるし、早朝枠のラジオなら日の出とともに生活をすることになる。

 普通のサラリーマンと付き合っても、休みの日が違うからデートなんてできない。ラジオの関係者と付き合ってもやっぱり同じこと。

 こんな恋愛乾燥状態の女にクリスマスを題材にしたシナリオなんて書けるのか? いっそのこと、妄想全開の女性なら一度は憧れるようなラブストーリーを書くのもいいかも。うん、その方向性でいこう。

 月曜日と火曜日でプロットを完成させて、水曜日の朝一で佐久間さんにプロットを見せた。

「うん。いいんじゃないか。クリスマスなんだし、こういうベタで単純なラブストーリーっていいよな」
「ありがとうございます」

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