雨音の周波数
「どうでしたか? リスナーさんの恋話をベースにラジオドラマを書くのは難しかったですか?」
「そうですね。リスナーは女性の方が多いので、届いた恋話の主人公は女性なんです。つまりヒロインですよね。そのヒロインを通して見えるヒーローを主人公に変えなくてはならなかったので、書かれていない男性の心情を表現するのは難しかったです」
「ラジオドラマを流したあとにリスナーさんのメールを読むと、ああそうだったのかと思える部分もあって面白いですよね」

 ブースの外では夏川さんが私に見えるようにカンペを掲げている。

"あと五分で曲"

 中島さんはヘッドフォンをしているためスタッフの指示が直に入ってくる。私は予定にない出演だったため、そういう準備はない。

 夏川さんに"わかった"ということを伝えるために軽く左手をあげた。

「このラジオドラマ企画、企画名がありませんよね」と中島さんが言ってきた。

 いまはラジオドラマ企画(仮)とひねりのない企画名がついている。

「そうですね。私は"ラジオだけの恋話"という仮タイトルを、今日のラジオドラマに付けていたんですよ」
「それいいですね。略して"ラジ恋"」
「"ラジ恋"いいですね。それにしましょう」
「企画名も決まったところで、小野さん最後に一言どうぞ」

 中島さんが私に見えるようにストップウォッチを向けた。

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