雨音の周波数
 次の日、会社に行くと佐久間さんは昨日のことは特に触れず「おはよう」といつも通りの挨拶をしてくれた。

「小野さん、昨日は大丈夫だった」と中島さんが心配そうに話しかけてきた。

「もう大丈夫です」
「びっくりしたよ。昨日、放送のときも元気そうだったから」
「放送のときは気を張っていたんですけど、力が抜けたら急に疲れが出ちゃったみたいです」
「そういう日もあるよね。元気そうでよかった」
「はい、ご心配をおかけしました」

 中島さんは少し安心した顔をして「さて、仕事、仕事」と言って席に戻った。

 昨日やるべきだった仕事を早めに片付けないと。

 午前の仕事を片付け、お昼休みに佐久間さんを食事に誘った。昨日のお礼と話したいことがあったからだ。

「小野が奢ってくれるとは成長したな」
「はい、佐久間さんのご指導ご鞭撻のおかげです」

 会社の近くにある喫茶店に入った。昔ながらの古い喫茶店で、ゆっくりしたいときには丁度いいお店だ。

「随分、渋い趣味だな」
「そうですか? 小洒落たカフェより落ち着いているから好きなんです。それにここのサンドイッチはボリュームがあって、すごく美味しいんですよ」
「へえ。じゃあ、そのおすすめのサンドイッチにしようかな」
「飲み物はどうします? 私はいつもアメリカンなんですけど」
「僕もそれで」

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