雨音の周波数
「あっ、小野さん」
「長谷川さん、お疲れ様です」

 ラジオドラマが初めての私は長谷川さんと一緒に仕事をするのも初めてだった。

 長谷川さんは、私のように番組制作や放送作家がメインに集まっている会社で働いているのではなく、ラジオ局で働いている人だ。

 このFMラジオ局は佐久間さんが放送作家として駆け出しのころに働いていた場所。その縁もあって、ここのラジオ局での仕事は多い。

「オーディション、初めて見ました。プロってすごいですよね。体は動かしていないのに走っている息遣いなったりして」

 隣に座った長谷川さんはペットボトルの蓋を開け、ミネラルウォーターをごくごくと飲んだ。一息ついてから「そうだね」と相槌を打った。

「小野さんの脚本よかったよ。俺、いいおじさんだけどさ、こういう当たり前のような甘いラブストーリーって好きだよ。いい番組を作ろうね」
「はい。ありがとうございます」

 空になった缶をごみ箱に捨て「お先に失礼します」と声を掛け、休憩室を後にした。

 オーディションから二週間後、配役も決まり、ラジオドラマの収録になった。

 一時間のラジオドラマと言っても、間にクリスマスソングと提供CMを流すため、ドラマは正味四十五分。

 丸一日を掛けて収録を進める。ブースの外で役者さんの声を聞く。

 自分が考えたものながら、なんてベタな展開をしているんだろう。そして甘いセリフを聞くたび絶叫したくなる。それでも何事もないかのように台本を見つめる。

< 5 / 79 >

この作品をシェア

pagetop