雨音の周波数
 圭吾は少し目を伏せて「俺たち、すれ違っちゃったんだな」と言った。

「そうだね。正確には私の勘違いと暴走のせいだね」
「いや、春香だけのせいじゃない。なんとなく春香の様子がおかしいのはわかってた。それなのに話をちゃんと聞いてあげなかったから」

 体の力が自然と抜けた。お互い、照れたような笑みを浮かべた。

「春香、誤解も解けたし、やり直さないか俺たち」

 予想外の言葉に息を飲んだ。私はなにも言えず、ただ圭吾を見つめた。

「春香と別れてから付き合った人もいた。でも、俺が今でも一番好きな人は春香なんだ。急にこんな話になって困るのもわかる。昔みたいに休みの日に会って、映画とか買い物とか行って、少しずつ距離を縮めながらもう一度恋をしよう」

 嘘偽りのない言葉は真っ直ぐ私に飛んでくる。でも、この気持ちに飛び込める勇気を私は持っていない。

「ごめんなさい。私、付き合っている人がいるの」
「もしかして、俺がラジオ局で待ち伏せしたとき、春香を車で待ってた人?」
「うん」
「そうか。なら仕方ないな」

 静かな空気が流れる。そして空になったグラスが二つ。圭吾は伝票を取り立ち上がった。私も立ち上がりお財布を出した。

「いいよ、奢る」と言って、圭吾はレジへ行ってしまった。

 会計を済ませカフェを出ると、むしむしとした空気が体を包む。涼しい店内とは雲泥の差だった。

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