雨音の周波数
女:クリスマスなんて私には関係ない。ただの十二月二十五日じゃない。

男:確かにそうだな。でも、そうやって突っぱねてる奴ほど、甘いクリスマスを夢見ていたりするんだよな。

女:人それぞれよ。私は違う。

男:へえ。俺は一緒にクリスマスを過ごしたいんだけど。

女:他をあたって。

男:じゃあ、実力行使しよう。


 収録は順調に進んだ。

 敢えて、この物語に出てくる男と女には名前がない。このドラマを聞く人が自分を投影して欲しいと思ったから。

 意地っ張りな女は世の中にたくさんいると思う。素直なほうがいいことぐらいわかっている。だから男はちょっとぐらい強引になるべきだ。そうすれば女は少し可愛くなる。

 収録が無事に終わり、役者さんと挨拶を交わした。小さな緊張がゆるみ、ほっと息を吐きだした。あとはスタッフサイドの編集と効果音、音楽を入れれば完成。肩の荷が一つ下りた。

 十二月二十三日、夜十時からの一時間。私は仕事をしながらパソコンでラジオを聞いていた。

 放送前に聞くことも可能だったけれど、私は敢えてリスナーになることを選んだ。会議室で正月の生放送番組に関する資料を見直していた。

 私の台本が曲のイメージを壊していないだろうか、セリフが浮いてしまっていないだろうか。頭には多くの不安が浮かんでいた。

 役者の演技に文句はない。スタッフさんの編集能力は素晴らしい。もしダメならば、それは台本の問題。

< 6 / 79 >

この作品をシェア

pagetop