雨音の周波数
「それはまた今度だな」
佐久間さんはフォークでキュウリを刺しソースを付ける。それを食べると「うん、これ美味しいよ」と言って、私に勧めた。赤いパプリカを口に入れると、アンチョビとニンニクの香りがした。
「ワインとよく合いますね」
「なあ、聞いてもいいかな?」
「なにをですか?」
「泣いた日のこと」
泣いた日、それは圭吾と再会した日のこと。佐久間さんの前で泣いたのはあの日以外ない。
「無理に聞き出すのはよくないと思っていたんだけどね。あの日を堺にどことなく雰囲気が変わったから」
「そうですか?」
「うん。すごく危うい感じ。小野は責任感が強くてしっかりしているから、仕事を放り出すようなことはしない。逆を言えば、責任がなければどこかに行ってしまいそうだ」
はっとした。私は高校生の頃から変わっていない。ただこの環境のおかげで真っ当に生きているだけかもしれない。
「春香」
初めて名前を呼ばれた。佐久間さんの視線が痛い。話さないといけないんだと思い決心した。
「あの日、一緒にいた人は、高校の頃、付き合っていた人です。すれ違いがあって、私が一方的に連絡を絶ちました。もう十年以上会っていなかった人です」
「そう。彼のこと今でも好きなの?」
「違います」
佐久間さんはワインを一口飲んで「そうか」と小さく呟いた。
佐久間さんはフォークでキュウリを刺しソースを付ける。それを食べると「うん、これ美味しいよ」と言って、私に勧めた。赤いパプリカを口に入れると、アンチョビとニンニクの香りがした。
「ワインとよく合いますね」
「なあ、聞いてもいいかな?」
「なにをですか?」
「泣いた日のこと」
泣いた日、それは圭吾と再会した日のこと。佐久間さんの前で泣いたのはあの日以外ない。
「無理に聞き出すのはよくないと思っていたんだけどね。あの日を堺にどことなく雰囲気が変わったから」
「そうですか?」
「うん。すごく危うい感じ。小野は責任感が強くてしっかりしているから、仕事を放り出すようなことはしない。逆を言えば、責任がなければどこかに行ってしまいそうだ」
はっとした。私は高校生の頃から変わっていない。ただこの環境のおかげで真っ当に生きているだけかもしれない。
「春香」
初めて名前を呼ばれた。佐久間さんの視線が痛い。話さないといけないんだと思い決心した。
「あの日、一緒にいた人は、高校の頃、付き合っていた人です。すれ違いがあって、私が一方的に連絡を絶ちました。もう十年以上会っていなかった人です」
「そう。彼のこと今でも好きなの?」
「違います」
佐久間さんはワインを一口飲んで「そうか」と小さく呟いた。